区域麻酔の有用性

区域麻酔の有用性はもはや自明の事実!

周術期の管理に区域麻酔が有用であることはもはや自明です。ヨーロッパでは、Prospect (procedure specific postoperative pain management)というプロジェクトが2002年から始まっており、エビデンスにもとづいた、手術における最適な術中・術後の疼痛管理について示されています。

例えば、股関節手術(大腿骨近位部骨折など)を見てみましょう。周術期の麻酔手技は脊髄くも膜下麻酔が、術後の患者アウトカムを向上させるために最も推奨されています(GradeA)。近年流行の創部浸潤麻酔や、PENGブロックを含めた末梢神経ブロックについては。まだエビデンスの蓄積が不十分なため、推奨はされていますが、GradeDです。術後鎮痛には、パラセタモール(アセトアミノフェン)とNSAIDsを組み合わせ、術前から継続して使用することを勧めています(GradeA)。そして、硬膜外麻酔は、推奨しない方法として紹介されています。

当院では、エビデンスに基づき、むやみに新しいものには飛びつかず、まずは確実に有効性の高い鎮痛方法をできるだけ多くの患者さんに適応しています。そのうえで、患者さんの身体状況に基づき、最適な周術期鎮痛手段を毎回確認して行っています。

周術期鎮痛手段を決定したら、その手法はできるだけ科内で統一するようにしています。例えば、大腿骨転子部・大腿骨頚部骨折の場合、第一選択は脊髄くも膜下麻酔、第二選択は全身麻酔(ラリンジアルマスク挿入)と末梢神経ブロック(PENGブロック、大腿神経ブロック、外側大腿皮神経ブロック)の併用で、局所麻酔薬の使用量もおおよそ一定させています。他方、人工股関節置換術(THA)は、整形外科主治医との取り決めにより、全身麻酔単独で行い、執刀医がロピバカイン(アナペイン)の浸潤麻酔を行っており、麻酔科医は使用する局所麻酔量について助言を行っています。


大腿骨近位部骨折に対するインプラントイメージと有用な併用ブロックの例
(酒井規広. PENGブロック In: 森本康裕編. レベルアップ超音波ガイド下末梢神経ブロック. 東京:MEDSi 2021: 95-101)

人工膝関節置換術(TKA)などの膝の大手術は、次の図に示すとおり、過去には脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の組み合わせを用いた周術期管理を行っていましたが、近年は末梢神経ブロックの普及により、大腿神経ブロックや坐骨神経ブロックを選択する施設が多いと思います。当院では先んじて、執刀医による創部浸潤麻酔を始め、麻酔科医は、神経束のより末梢の枝のみをブロックする、内転筋管ブロック(もしくは大腿三角ブロック)や、近年発表された膝窩神経叢ブロック(Popliteal Plexus Block)に注目し、手技を統一し、科学的な検証を経て採用しています。数ある症例に対して、適切に手技のマネージメントを行い、手法を極力統一化することで、私達が行っている手技をできるだけ正しく評価しやすいように工夫し、常に手技の検証とブラッシュアップをし続けています。

膝手術における周術期鎮痛管理手段の変遷
(Rawal N. Euro J Anaesthesiol 2016;33:160-71より改変。酒井規広. 麻酔 2019;68:725-732より)